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Small talk ~紡ぐ~

特別インタビュー「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」園芸・植物新事業で精神障害者を15人雇用 ~コロナ禍で健康的に働く園芸型農福連携事業~

「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」
アディクション等を対象とした緊急支援事業

実行団体「一般社団法人パーソナリティカレッジ」
藤田了さん


休眠預金等活用とは?

「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)に基づき、 2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引のない預金等(休眠預金等)を社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する制度が2019年度から始まりました。

プラスソーシャルインベストメント株式会社は、助成金を通じて新たなチャレンジをする事業の成功に貢献したいという思いから、一般財団法人日本民間公益活動連携機構が実施する2021年度、2022年度の新型コロナウイルス対応緊急支援助成(アディクション等を対象とした緊急支援事業)の資金分配団体として、アディクション(依存症)や精神障がい者等、困難を抱えている人たちを対象とした事業を募集し、実行団体の採択、資金助成を行いました。
また、このような民間公益活動の自立した担い手を育成するため、経営・人材支援等の非資金的支援を伴走型で実施しました。

今回は、2022年度の休眠預金活用事業実行団体としてプロジェクトに挑まれた団体のひとつ、一般社団法人パーソナリティカレッジの藤田さんにお話をうかがいましたので、ご紹介します。

 

一般社団法人パーソナリティカレッジ
園芸・植物新事業で精神障害者を15人雇用
~コロナ禍で健康的に働く園芸型農福連携事業~

一般社団法人パーソナリティカレッジ
地域の障害者に対して障害者総合支援法に基づく福祉サービス事業を行い、社会福祉に寄与すること。作業指導・生活支援・相談を実施して心身障害者の自立を促進すること。これら2つを目的として、就労継続支援A型、B型事業所の運営と放課後等デイサービスからなる障害福祉サービス事業を展開する。一般事業ではビギナー向け植物店も経営。これらを通して、児童発達支援から就労移行支援までをワンストップでサポートしている。


2022年度の休眠預金活用事業実行団体として、一般社団法人パーソナリティカレッジが挑んだのは「園芸・植物新事業で精神障害者を15人雇用~コロナ禍で健康的に働く園芸型農福連携事業~」でした。
アディクションや精神障害等で生きづらさを感じている人を対象としたこのプロジェクトでは、植物を輸入・育成する農場事業と、この農場事業で扱う植物を用いた園芸事業にチャレンジ。既存事業とアイデアとの組み合わせで、障害福祉の可能性を広げる藤田了さんにお話をうかがいました。


コロナ禍で健康的に働く園芸型農福連携事業について

今回チャレンジしたプロジェクトについて、教えてください。

植物を輸入し、育成する農場事業と、その農場で扱う植物を使っての園芸事業に挑戦しました。農場にはショップも併設し、小売事業を始めています。
障害福祉サービス業界にとって、屋外でのびのびとルーティン作業に取り組める農福連携は一つのトレンドです。プロジェクトの方向性を決めるにあたり、このトレンドも意識しました。既存事業であるビギナー向け植物店「GAJU GAJU」で確立していた、「希少性の高い植物を含む100種類近い植物の取り扱い店」というブランドもプロジェクトに厚みを持たせてくれましたね。

農場事業と園芸事業について、具体的にお話しします。まず、農場事業。この事業には、植物の苗植え・栽培・メンテナンス等を行う施設が必要でした。そこで、施設を構える土地探しから始めました。
空き地であればどこでもよいというわけではなく、広くて高速道路へのアクセスがよい場所にしぼって土地を探しました。その理由は、私たちのビジネスパートナーであるイオンモール和歌山さんの存在にあります。イオンモール和歌山さんとは2020年からのお付き合いで、障害者雇用の機会拡大について何度となく意見交換を重ねてきました。今回の事業に関してもパートナーになってくれていたため、イオンモール和歌山さんや、他地域のイオンモールさんへ植物を出荷する可能性も見越して、「広くて高速道路へのアクセスがよい」土地を求めたのです。見つけた土地に建物が残っていたので、これをリノベーションして事務所・休憩室を作り、ショップも新設。農場には大型テラス屋根を設置して、植物を栽培する環境を整えました。

一般社団法人パーソナリティカレッジ園芸事業の様子

このリノベーションについては、一つエピソードがあります。実は当初の計画では、建物は新築する方向で考えていました。それをリノベーションに変更という点で、伴走者であるプラスソーシャルインベストメントさんにご調整を相談したんです。
伴走者は「あれはダメ、これはダメ。計画通りに」といった関わり方をしてくるのかなと思っていたのですが、プラスソーシャルインベストメントさんは違いました。「新築をやめてリノベーションをしたい。農場も、大型テラス屋根にしたい」とお伝えした時に、「ん?」というお顔はされたんですが、それは「困った」反応ではなく、「私たちの思いをもっと知りたいから、もっと説明してほしい」という反応だったんです。そこから、新しい方向性に向けてどういう手続きがいるのか、一緒に考えて実現へと導いてくれました。プラスソーシャルインベストメントさんの多大なお力添えで、いまの形があると言えます。

そうして生まれた農場事業で輸入・育成した植物を活用して行うのが、園芸事業です。イオンモール和歌山さんからのご発注で、乾燥した地域で育つサボテンなどの植物がメインのドライガーデン、岩石が主役のロックガーデン造りの実績を早々につくることができました。他社さんや店舗さんからも、「植物を用いて外構の印象をアップしたい」とご依頼をいただいています。

プロジェクト発案の背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

一つは、コロナ禍がもたらした私たちの事業へのダメージです。もともとは就労継続支援B型事業所として、子ども連れの保護者さんが気兼ねなく利用できるキッズレストラン&カフェを運営していました。コロナ禍でキッズレストラン&カフェの利用者が激減。コロナの影響は2~3年続くと予想できましたから、そこで事業をどうしていくかの判断を迫られたのです。
新事業を考える際のキーワードは3つありました。一つが「農福連携」。これは障害福祉サービス業界のトレンドですね。そして「就労継続支援A型事業所」。コロナ禍以前に、業界的にA型事業所が減る出来事があり、「A型事業所に入りたいけれど入れない」、との声があがっていました。その点もできればカバーしたいという思いがありました。
3つめが、既存事業「ビギナー向け植物店GAJU GAJU」です。この事業は、「輸入植物を観葉植物として使うスタイルが今後のトレンドになるのでは」との分析のもと、コロナ前にスタートした事業でした。

こうしたキーワードと、コロナ禍による精神障害者の失職急増、精神障害者が健康的に長く勤められる職場づくりの急務といった社会課題を掛け合わせて、農場事業と園芸事業のアイデアが生まれたのです。
既存事業と新事業を組み合わせれば、利用者の就労継続支援から一般就労、地元企業での実習までを丸ごとサポートできます。そうすれば、「ただ働くのではなく、ステップアップして、もっとお金を稼ぎたい。そのお金で免許を取ったり、結婚を考えたりしたい」といった利用者からのお声にも応えていける。こうしたさまざまな要素を編集し、形にしたものが今回のプロジェクトです。

事業の成果はどうでしたか?

(1)雇用した精神障害者の安定就労、②経営の安定化と給与増、③ビジネスパートナーであるイオンモール和歌山への一般就労実現。この3つを短期目標として、数値目標を立てました。

成果目標

精神障害者15名の新規雇用 一般就労者3名 地元企業での実習者3名(2023年2月時点)

成果

精神障害者20名の新規雇用

精神障害者の新規雇用については、目標の15名を2022年11月末の段階で達成できました。その後も契約が続き、報告のタイミングでは、20名に働いてもらえています。

新規契約については、当初は苦戦が続きました。利用者に当社を案内しても、「働いてみたいけれど、コロナ患者が増えていて不安なんです」といった反応が多かったためです。働きたいけれど不安、そんな気持ちに寄り添えるよう、「屋外での農場作業」であり、その作業も「マスクなしでも大丈夫なくらい、人との距離感を確保して行える」という丁寧な発信をくり返した結果、少しずつ見学希望者が増えて、契約につながっていきました。
実際に農場に入った利用者からは、「のびのび働ける環境で嬉しい」「コロナも気にならない」といった喜びの声をいただき、そこから雇用数が伸びていった実感があります。

精神障害者の新規雇用については、目標を上回る数値を出せました。計画では、農場事業・園芸事業で就労に慣れていただき、一般就労や地域企業での実習へのステップアップを予定していましたが、新規雇用序盤での苦戦が響いて、一般就労や企業実習への送り出しに間に合わせることができませんでした。

事業の実施期間というくくりを除けば、当社では利用者が着々と社会人としての基本マナーなどを身につけ、ステップアップの準備を整えています。次はいよいよ、イオンモール和歌山さんでの実習です。スムーズな実習スタートを切れるよう段取りはしていますが、現場に入って初めて見えてくる課題もあるでしょう。その課題もイオンモール和歌山さんと共に解決し、利用者の満足とともにモデルケースを確立したい。そしてゆくゆくは、このプランを他地域にあるイオンモールさんへ水平展開していければと考えています。

次のステージへ向かって

現在の活動状況はいかがでしょうか?新たに考えているチャレンジもありますか?

今回は間に合わなかった、一般就労と地元企業での実習を進めていきたいですね。地元企業とはイオンモール和歌山さんのことですが、イオンさんに入居している各店舗さんで実習を行うには、現場の方のサポートも必要です。実習に入った場合の具体的業務のすり合わせや、利用者の特性と業務との相性といった細かな調整を現場の方と行った上で、利用者に情報を伝える。こうしたプロセスが重要になってくると予想しています。実習中・実習後のフォローアップでは、訪問看護の看護師さんにも加わってもらいながら、一般就労・実習を支援していこうと考えています。

まだ始まったばかりの農場事業・園芸事業ですが、精神障害者の就労支援につながる確信があります。精神障害者は、並外れた集中力や、繊細さを個性として持っている。そんな特性が、農場・園芸の仕事に適しているんです。
利用者と私たち、そしてイオンモール和歌山さん。このプロジェクトに関わる全ての方の個性を合わせたチャレンジで、ソーシャル・インクルージョンの輪をさらに広げ、みんなが利益を得られるようにしていきたい。それが今後の目標です。

メッセージ

社会課題解決に向けて、事業を起こそうと考えている方はまだたくさんいると思われます。
「社会課題解決」に関心のある「未来の仲間」へ向けて、メッセージをお願いします。

チャレンジの過程には、計画通りに運ばないこともたくさんあります。ただ、目標がしっかりしていると、軸が定まるので何とかなってしまう。いきなり大きなことを成しとげるのは難しいかもしれませんが、しっかり1つずつピースをはめていくと、気づけば大きな山を登りきっていた、という発見もあるのではないでしょうか。

私個人で言えば、今回のプロジェクト達成には仲間の協力も不可欠でした。ぜひ仲間と助け合って、思いを形にしてもらえたらと思います。

インタビューを終えて

今回の休眠預金等活用事業により、アディクションや精神障害等で生きづらさを感じている人を対象とした園芸型農福連携事業が生まれました。
序盤で新規雇用の苦戦が続きましたが、利用者さんの気持ちに寄り添った丁寧な発信をくり返された結果、目標を上回る20名の新規雇用につながりました。

一般就労や企業実習への送り出しには間に合いませんでしたが、リノベーションの形で農場施設ができ、利用者のみなさんが社会人としての基本マナーなどを身につけられる園芸事業の場が生まれました。
既存事業とアイデアとの組み合わせで、障害福祉の新たな可能性が広がっていると感じます。

現在もこの就労支援事業は続けられていて、放課後等デイサービス事業や、緑に囲まれて新鮮なフルーツを楽しめるGREEN CAFEのオープンなど精力的に事業を進められています。

一般社団法人パーソナリティカレッジの藤田了さん、ありがとうございました!

現在の活動や思いについては、以下もご覧ください。

→一般社団法人パーソナリティカレッジ

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