2024年4月5日
食の6次産業化と障害福祉:株式会社クロフネファーム
「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」
アディクション等を対象とした緊急支援事業
食の6次産業化と障害福祉
~経済的自立と生活のステップアップ~
実行団体「株式会社クロフネファーム」(三重県伊勢市)
案裏豊土さん、杉本創さん
株式会社クロフネファーム
「健康に豊かに幸せに生きる」をテーマに、ビュッフェレストラン(就労継続支援A型事業所※)運営と、万能調味料・ドレッシングの製造販売を行う。
コロナ禍をきっかけに、ビュッフェレストランを一時休業。売上95~96%減という厳しい状況に陥りながらも、就労の場を守りたいとの気持ちで、就労継続支援B型事業所※として焼き芋スイーツショップ運営をスタートした。※就労継続支援A型事業所
障害のある方が一般企業などでの就職が困難な場合に、一定の支援がある職場で雇用契約を結んだうえで働くことができる障害福祉サービスのこと。このため最低賃金以上の給料が保障されています。
※就労継続支援B型事業所
障害のある方が一般企業などでの就職、また雇用契約に基づく就労が困難である場合に、雇用契約を結ばずに働くことができる障害福祉サービスのこと。就労に必要なスキルなどを習得しながら障害や体調にあわせて自分のペースで働くことができ、賃金ではなく「工賃」として対価が支払われます。
生産活動の内容は事業所によって異なりますが、農作業や部品加工などの軽作業が多く、同じ就労継続支援でもA型と比べてより細分化された作業をおこなう場合が多いです。
2022年度の休眠預金活用事業実行団体として、株式会社クロフネファームが挑んだのは「食の6次産業化と障害福祉~経済的自立と生活のステップアップ~」でした。
アディクションや精神障害等で生きづらさを感じている人を対象としたこのプロジェクトでは、サツマイモの栽培から、その芋を使った焼き芋スイーツの製造・販売までを行う6次産業化に成功。並行して、生きづらさを感じている人々の経済的自立・生活面での自立をサポートするステップアップハウスの運営にも着手しました。
既存事業のブランド強化と、それを支える6次産業化のシステム構築について、案裏豊土さん、杉本創さんにお話をうかがいました。
今回チャレンジしたプロジェクトについて、教えてください。
今回チャレンジしたのは、食に関わる事業の6次産業化と、生きづらさを感じている人々の経済的自立・生活面での自立をめざしたステップアップハウスの運営です。
コロナをきっかけに来店型のビュッフェレストランを一時休業。芋けんぴという焼き芋スイーツの製造(第2次産業)・販売(第3次産業)を行っていたこともあり、原料のサツマイモ栽培(第1次産業)も加えて事業を6次産業化しようと考えたんです。6次産業化には、私たちの人数や能力に応じて生産・製造・販売をする流れを作って、就労の場を守っていければという思いがありました。
もう一つのチャレンジが、生活支援から就労支援につながるステップアップハウスの運営です。責任者(寮父・寮母)やほかの利用者との共同生活を通じて、一人暮らしの基本となる炊事力・洗濯力・掃除力をつけてもらうのがステップ1。ステップ2では、サツマイモ栽培に取り組んでもらいます。その次は、サツマイモを調理しての商品づくり。このステップ3で作った商品を、店舗や催事で販売するのがステップ4です。こうしてほかの利用者と助けあい、協力して仕事ができるようになってきたら、ステップ5の一般就労フェーズに移ってもらいます。
2つのアプローチで、利用者の経済的自立と生活のステップアップをめざすプロジェクトを考え、実行しました。
プロジェクト発案の背景には、どのような思いがあったのでしょうか?
プロジェクト発案の直接的な原因は、新型コロナウイルスの流行でした。コロナ以前、私たちは野菜料理中心のビュッフェレストランという形で、障害福祉サービス事業所と、就労継続支援A型事業所を運営していました。ご存知のとおり、コロナ禍では人との接触が敬遠され、大人数での食事会が難しい状況に。その結果、ビュッフェレストランの売り上げは2020年3月の時点で約95~96%減にまで落ち込んでしまったのです。これでは就労の場を守るどころか、事業を成り立たせることもできません。
そんなタイミングで、知り合いが焼き芋スイーツショップをオープンしたとの情報が届きました。その方のところに、オープニングスタッフとしてお手伝いに行ったことが、転機になりましたね。お芋は上手に焼いたら、とても甘く、美味しくなります。焼く・販売する、シンプルな作業は利用者にも向いていると考え、就労継続支援A型事業所であったビュッフェレストランを一時休業として、就労継続支援B型事業所として取り組む焼き芋スイーツ事業を始めたんです。焼き芋から始めて、商品開発をくり返し、現在の芋けんぴへと落ち着きました。
コロナをきっかけに事業形態を変えざるをえなかったわけですが、こうした変化は私たちに限ったことではありません。仕事を失うなかで精神的疾患を発症し、次の職を見つけられずに引きこもってしまったり、アルコールや薬物に依存したりする若者が増えたという社会課題が報告されています。飲食店の休業を受け、納品先を失った農家のなかには、農業をやめてしまう方もいました。地元の風景のなかに耕作放棄地が増えていく様子は、見ていて胸が痛みます。
私たちの事業、障害福祉業界、そして近隣の農家さんに関する既存課題はもちろん、コロナ禍が新たに引き起こした課題を解決していきたい。そんな思いで企画・実行に移したのが今回のプロジェクトです。
事業の成果はどうでしたか?
私たちの事業所で経済的自立・生活面での自立を果たした利用者が、一般就労へ計画的に移行していくこと。耕作放棄地を活用してのサツマイモ栽培を自社で実施できるようにすること。大きく2つの目標を掲げ、こうした支援を利用者に継続提供するために必要な数値目標を立てました。
成果目標
(1)障害者雇用数15名
(2)アディクション対象者雇用数10名
(3)一反生産量3t
(4)月次売上250万円
(5)ステップアップハウス入室者10名(2023年2月時点)
成果
(1)障害者雇用数12名
(2)アディクション対象者雇用数3名
(3)一反生産量2.4t
(4)月次売上300万円(単月達成)
(5)ステップアップハウス入室者5名(4月入室2名を含む入室候補者4名)(2023年2月時点)
数字だけ見れば、売上を除いて「未達成」ですが、ものづくりにおいて重要な販売経路については、大きな可能性をつかむことができています。
美味しいサツマイモから美味しい芋けんぴを作っても、販売先がなければ事業は継続できません。販売力のある企業から製造を受託する手段もありますが、もしこの企業が「今までは100個の製造をお願いしていたけれど、来月からは20個にしてください」と言えば、私たちは一気に仕事を失ってしまいます。私たちの人数と能力に基づいて仕事をするには、販売力は不可欠です。そのため、販売経路の開拓には大きな労力をかけました。
転機は2022年8月。私たちのようなメーカーと、メーカーの出店を誘致したい催事場とをつなぐマッチング会社との出会いにありました。「ヘルシーでフレーバー数も豊富な、細いタイプの芋けんぴを、女性の小さなカバンに収まるおしゃれなパッケージに入れています」とPRしたところ、「面白い」との評価をいただき、催事場に紹介してくれたのです。一つの催事場に出店すると、ほかの催事場からも「次は当社で出店を」とお声がけいただけるようになり、月間の出店日数が53日に上った月もあるほどでした。
催事場の出店には、三重県からの交通費、現地での宿泊費、人件費など、お金がかかります。販路開拓にかかる経費を助成金から捻出できたことで、大切な時期にしっかりとチャンスを掴めました。
次のステージへ向かって
現在の活動状況はいかがでしょうか?新たに考えているチャレンジもありますか?
私たちの芋けんぴは、通常の芋けんぴよりもかなり細いタイプの芋けんぴです。女性を主なターゲットとして工夫を凝らし、商品を育ててきました。「ほかにはない芋けんぴ」であることと、それを就労継続支援事業所が原料のサツマイモから作っているというストーリーとが合わさって、現在の評価があります。
このストーリーに地域性を加えたいと考え、全国料理コンクールへの連続出場・連続入賞実績を持つ三重県立相可高等学校調理技術クラブに商品開発をお願いしました。相可高等学校さんには「商品を誰に届けたいか、商品にどのような社会的意味があるのか」といったことも生徒に考えてもらいたい、との意向があったので、「ぜひ一緒に取り組みましょう」と、とんとん拍子に話がまとまりました。
耕作放棄地の問題にも着手していけたらと考えています。近隣の農家さんから「うちの畑も使ってほしい」と打診をいただいているのですが、私たちがそこで一から生産するのは、移動距離やマンパワーに課題があって難しいんです。そこで、できたサツマイモは全て買い取り、農業で特に手がかかる苗植えと収穫時にはお手伝いに行くので協業しませんかと提案をしていこうと思っています。
プロジェクトに取り組んでいると、「ほかの実行団体さんは、もっとスムーズに進めているんだろうな」と、孤独感が湧き上がってくるんです。その点で、プラスソーシャルインベストメントさんが作ってくれた交流の機会はありがたかったですね。ほかの実行団体さんの思いや苦労を分かちあえるので、仲間意識が育つんです。会社は別でも、それぞれの目標達成へ向けて切磋琢磨する仲間の存在は、得難いものだと実感できました。
砂糖も小麦粉を使わない焼き菓子を作っている実行団体さんとは、その焼き菓子と芋けんぴとでギフトボックスを企画したいですねといったお話しもできました。アイデアはまだ具体化していませんが、連携していけそうな可能性にワクワクしています。
メッセージ
社会課題解決に向けて、事業を起こそうと考えている方はまだたくさんいると思われます。
「社会課題解決」に関心のある「未来の仲間」へ向けて、メッセージをお願いします。
「きっとよい未来を作っていける」と思ったアイデアは、いろいろな人を頼りながら思いきってチャレンジしてみましょう。挑戦から拓けていくものがあると、今回のプロジェクトを通して実感しました。
人を頼って相談すると、「こうやってみてはどうだろう」「この部分は私たちの会社で手伝えますよ」というふうに、仲間が増えていくんです。チャンスがあるなら、どんどんチャレンジして仲間を増やしていくと、想定していたゴールよりも遠いゴールにたどり着けます。チャレンジは経験と知識とを必ず残してくれるので、仮にそのチャレンジ自体がうまくいかなくても、次のチャレンジの糧になるはず。挑戦して損をすることはありません。
インタビューを終えて
今回の休眠預金等活用事業により、休業していた就労継続支援A型事業所のレストランから、就労継続支援B型事業所として取り組む焼き芋スイーツショップ運営事業が生まれました。
催事場への出店から販売経路が拡大し、今後の可能性に繋がっています。
同じ休眠預金等活用事業を進める団体との交流からコラボレーション企画の話も出ているとのこと。
経済的自立と生活面での自立を果たした利用者さんが一般就労へ移行するための土台づくりに貢献できたと考えています。
2023年7月からはコロナ禍によって閉められていたレストラン事業を再開され、『発酵』や『酵素』をテーマとしたトータル健康発信基地事業も進められています。
現在の活動や思いについては、以下もご覧ください。
株式会社クロフネファームの案裏豊土さん、杉本創さん、ありがとうございました!