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Small talk ~紡ぐ~

特別インタビュー「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」四国にアディクションを抱える女性の安全な働きの場を創造する

「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」
アディクション等を対象とした緊急支援事業

実行団体「特定非営利活動法人高知ダルク」
宮本容子さん、真船毅士さん


休眠預金等活用とは?

「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)に基づき、 2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引のない預金等(休眠預金等)を社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する制度が2019年度から始まりました。

プラスソーシャルインベストメント株式会社は、助成金を通じて新たなチャレンジをする事業の成功に貢献したいという思いから、一般財団法人日本民間公益活動連携機構が実施する2021年度、2022年度の新型コロナウイルス対応緊急支援助成(アディクション等を対象とした緊急支援事業)の資金分配団体として、アディクション(依存症)や精神障がい者等、困難を抱えている人たちを対象とした事業を募集し、実行団体の採択、資金助成を行いました。
また、このような民間公益活動の自立した担い手を育成するため、経営・人材支援等の非資金的支援を伴走型で実施しました。

今回は、2022年度の休眠預金活用事業実行団体としてプロジェクトに挑まれた団体のひとつ、特定非営利活動法人高知ダルクのみなさんにお話をうかがいましたので、ご紹介します。

 

特定非営利活動法人高知ダルク
四国にアディクションを抱える女性の安全な働きの場を創造する
~月と太陽と星たち~

特定非営利活動法人高知ダルク
1996年2月の開設以来、薬物依存症者などに対して断薬支援、住居と食事の提供、日常生活に関する相談といった支援活動を行う。2017年からは支援対象を女性にしぼり、「心身の健康」「社会参加と自立」実現へ向けた支援を継続してきた。アディクションを抱える人のなかでも、女性アディクトの回復には長い時間がかかる。高知ダルクは年単位で女性たちに寄り添い、社会復帰を見守り続けている。


2022年度の休眠預金活用事業実行団体として、特定非営利活動法人高知ダルクが挑んだのは「四国にアディクションを抱える女性の安全な働きの場を創造する~月と太陽と星たち~」でした。
アディクションや精神障害等で生きづらさを感じている女性を対象としたこのプロジェクトの目的は、カフェ事業を通じてアディクション問題を抱える女性たちに、「主体でありつつ、支えあうこと」について考える機会を提供することでした。
女性たちの意見を取り入れつつ、カフェをオープンした宮本容子さん、真船毅士さんにお話をうかがいました。


アディクションを抱える女性の安全な働きの場について

今回チャレンジしたプロジェクトについて、教えてください。

アディクション問題を抱える女性(女性アディクト)が安全に働ける場として、カフェをオープンしました。女性アディクトの回復には、長い時間がかかります。しかし、障害福祉サービスが、そんな女性アディクトに伴走できる期間は最長でも2~3年。2~3年のサポートを受けたとしても、女性アディクトが社会へ戻るには、さらに年単位のサポートが必要です。その数年を就労支援という形で寄り添えるよう、カフェ業態を選びました。

カフェオープンに向けては、いくつもの工程がありました。店舗設計や内装は、カフェに関わってくれる女性アディクトの意見も取り入れて決定しています。女性アディクトがミーティングで口にしていたのは、「あたたかさ」「居心地のよさ」という言葉。こうしたキーワードを、白い壁やステンドグラスといった素材でカフェに反映していきました。カフェの看板にあるイラストや、使っている家具も女性アディクトたちのお手製です。
そんなカフェにこめたのは、「いろいろな輝きがあってよい。遠く離れているもの同士でも、空という美しい絵を描ける星のようでありたいし、あってほしい」との願い。このコンセプトから皆のカフェを、「月と太陽と星たち」と名づけました。

プロジェクト発案の背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

コロナ禍が引き起こした問題とコロナ以前からの課題、その両方が背景にあります。
コロナ禍で起こった課題から言うと、人がどんどん分断された。人との会話、人とのふれあいを極力控えるようにという風潮が世間に満ちました。女性アディクトの回復には、コロナ禍で禁じられた人とのふれあい、コミュニケーションが重要です。ご家庭の状況などから、頼る人がいなくて、社会から孤立している女性アディクトも多い。こうした女性たちは、仕事を介して人とのふれあいを持っているわけですが、それがコロナ禍の雇い止めなどで失われてしまいました。その結果、拠りどころを失った絶望から、自死を選ぶ女性アディクトが増えるという問題が起こってしまったのです。こうした点から、会話やコミュニケーションの場を確保しなければと考えました。

コロナ以前からの課題としては、女性アディクトと就労継続支援事業所とのマッチングがよくない点があります。女性アディクトは、自分たちの施設からほかの事業所さんへ週2~3日通うケースが多いのですが、その事業所とマッチングしづらいのです。入った事業所に知り合いがいないつらさが大きいと認識しています。それならば、生活訓練と、就労継続支援B事業所を一つの法人で運営すれば、生活訓練を終えた女性アディクトは、仲間と一緒に安心して就労継続支援を受けるステージに進んでいけます。コロナ以前とコロナ禍、両方の課題を解決する方法として、就労経験を積めるカフェが最適だと考え、企画を進めました。

事業の成果はどうでしたか?

安全な就労経験を必要とする女性15〜20名の受け入れと、仕入れ・調理・接客・広報の一連の作業が持続可能に引き継がれている状態をめざして、運営日数の目標を立てました。

成果目標

安全な就労経験を必要とする女性15〜20名の受け入れ
週5~7日のカフェ運営(2023年2月時点)


成果

安全な就労経験を必要とする女性3名の受け入れ

目標数値に近づけられなかった要因は、物件探しの難航にあります。計画では、カフェのオープン時期を2022年9月と設定していました。しかし、そのカフェをつくる場所がなかなか見つからなかったのです。
カフェの場所は、どこでもよいわけではありません。高知ダルクのそばにある特殊建造物扱いの建物で、お弁当作りや店内での食事・飲料提供に十分なスペースがあること。最終的に、これらの条件を満たす物件は見つかったのですが、内装工事を終える頃には2022年12月になっていました。

物件を探している間、カフェに入ってもらう女性アディクトには調理シミュレーションを重ねてもらっていました。そうして開店準備を進めていると、どうしても「経営脳」になり、「経済活動としての店づくり」が目的になってしまいます。私たちがめざすのは、売上を立てるためのカフェではなく、就労支援の場としてのカフェです。スタッフとして入ってくれる女性アディクトの人数や体調に合わせて、営業日数や営業時間を変えていく必要があるのですが、よくその本質を見失いそうになりました。そうして私たちが目的と手段とを取り違えそうになるたび、的確に声をかけてくれたのがプロジェクトの伴走者であるプラスソーシャルインベストメントさんです。誤りを指摘するのではなく、「カフェを始める目的は何でしたか?」と、自ら原点に立ち戻れるような問いかけをしてくれる。おかげで自らの立ち位置を見失わず、走りきることができたと実感しています。

次のステージへ向かって

現在の活動状況はいかがでしょうか?新たに考えているチャレンジもありますか?

女性アディクトの支援に特化して、生活訓練と就労継続支援B型事業所を展開している事業者は、全国でも珍しい存在です。他地域のダルクなどで生活訓練を終えて、そこから社会復帰までをどうしていくか、働く場所はあるのかと悩んでいる女性アディクトに、安全な働く場所を提供したいと考えています。カフェでの就労経験が、ステップアップにつながっていけば嬉しいですね。

もう一つ、カフェ運営を通して女性アディクトに、新しい発見をプレゼントしたいと思っています。現在、カフェには女性アディクトが3人関わってくれています。カフェでの就労が始まった当初、3人には戸惑いが見られました。
その主な要因は、就労以前と、就労が始まってからの1日のスケジュールの変化でした。生活訓練は、10時スタート。対してカフェの営業は8時半から始まります。早起きして仕事へ向かう、その習慣づけに時間がかかったようでした。その後の時間の使い方も、ガラリと変わります。生活訓練の目的は、体を休めて回復をめざすこと。最優先すべきは体調で、プログラムや作業も体調次第で欠席できます。対するカフェは就労の場ですから、生活訓練よりも欠席のハードルは高い。そしてカフェに入ったら、休憩時間を除いては動きっぱなしになります。アディクション問題を抱える人は、まじめで頑張り屋さん。カフェに関わる女性アディクトも、「頑張らないと」という思いで踏ん張ってくれていたのですが、疲れた様子がうかがえました。無理をしている様子がなくなったのは、2023年2月ごろ。「創作活動もしたいので、1日お休みがほしい」「週1日は、生活訓練を受けたい」といった希望を、女性アディクトたちが伝えてくれるようになったのです。


これを私たちは、カフェでの就労を通して、女性アディクトが「自分の意志を明確にしつつ、同じカフェで働くメンバーを思いやり支えあう」コミュニケーションに気づいてくれた結果ではないかととらえています。この先、カフェに新しい仲間が加わった時には、今回の事例もふまえて気づきを促す支援をしていきたいと思っています。

メッセージ

社会課題解決に向けて、事業を起こそうと考えている方はまだたくさんいると思われます。
「社会課題解決」に関心のある「未来の仲間」へ向けて、メッセージをお願いします。

「就労支援の場としてのカフェづくり」が目的でありながら、実作業に着手するうちに「経済活動としての店づくり」が目的になっていく。プロジェクトが進むなか、目的と手段の取り違えはしばしば起こりました。プラスソーシャルインベストメントさんの力も借りながら原点に戻って来られたのは、はじめに決めたプロジェクトテーマがあるからこそ。このテーマがなければ、事業もあやふやになってしまったことでしょう。「どんなゴールをめざしたいのか」。そこをずらさないようにテーマを決めて、そこから行動を起こしていくことが大切ではないかと思います。

もう一つは、ワクワクと事業計画とのバランス。プロジェクトを企画する際には、その内容にワクワクしているかも重要です。ただ、ワクワクする要素だけでもダメで、プロジェクトに必要なデータを集めて事業計画や資金計画に落とし込むプロセスも必要となります。
もし後者の事務作業が苦手なら、サポートしてくれる人にお任せしましょう。そうすると、そのサポーターが仲間になります。サポーターが増えると、その人の思いがあなたの思いに加わって、さらにプロジェクトの柱が太く強くなっていく。仲間はいくらでも増やせます。あたためている思いがあるのなら、勇気を持ってチャレンジしてみてください。

インタビューを終えて

今回の休眠預金等活用事業により、アディクション問題を抱える女性が安全に働けるカフェ事業が生まれました。
物件探しが難航したことで受け入れ人数が目標に届きませんでしたが、新たな就労支援の場の提供が可能となりました。

「自分の意志を明確にしつつ、同じカフェで働くメンバーを思いやり支えあえる」場ができたこと、またその構築のプロセスを経験されたことは、今後の支援にいかしていただけると考えています。

「いろいろな輝きがあってよい。遠く離れているもの同士でも、空という美しい絵を描ける星のようでありたいし、あってほしい」という願いは、お店の雰囲気からも感じ取ることができます。

身体を思いやることを第一に提供されているメニューは、訪れた人の身体と心もいやしてくれそうです。
現在の活動や思いについては、以下もご覧ください。

→特定非営利活動法人高知ダルクWebサイト

 

特定非営利活動法人高知ダルクの宮本容子さん、真船毅士さん、ありがとうございました!

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