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Small talk ~紡ぐ~

ウィズコロナ対応障害福祉サービス事業所設置と就労支援事業:一般社団法人回復支援の会

2023年10月20日

ウィズコロナ対応障害福祉サービス事業所設置と就労支援事業:一般社団法人回復支援の会

「休眠預金 新型コロナウイルス対応 緊急支援助成」
アディクション等を対象とした緊急支援事業

ウィズコロナ対応障害福祉サービス事業所設置と就労支援事業
~アディクト主導によるアディクトの地域生活を支える~

実行団体「一般社団法人回復支援の会」(京都府木津川市)
加藤武士さん

一般社団法人回復支援の会
2013年に設立された木津川ダルクで、薬物によるアディクション問題を抱える当事者を対象に回復支援を行う。龍谷大学とも連携し、アディクション問題研究や薬物乱用防止の訴え、回復支援プログラムへの協力や講師の派遣も実施。よりそいホットラインの電話相談事業も手がける。一般社団法人回復支援の会は2020年に設立。アディクション問題を抱える人に寄り添いながら、必要なサービスを新設・提供している。


2022年度の休眠預金活用事業実行団体として、一般社団法人回復支援の会が挑んだのは「ウィズコロナ対応障害福祉サービス事業所設置と就労支援事業~アディクト主導によるアディクトの地域生活を支える~」でした。
薬物やアルコールによるアディクション問題で生きづらさを感じている人たちからの各種相談を受け付けるデジタルプラットフォームの構築や、オンライン時代に対応するためのパソコンスキル指導。農業体験、お試し就労ができる便利屋事業など、さまざまなアイデアを実行に移した加藤武士さんにお話をうかがいました。

 

今回チャレンジしたプロジェクトについて、教えてください。

チャレンジしたプロジェクトは大きく3つあります。順番に説明していきますね。
まず、「デジタルプラットフォームの構築」。これは、コロナをきっかけに表面化した、インターネット上の支援体制の不十分さから発案しました。コロナ以前、アディクション問題を抱える当事者の回復支援を目的とした会合や集会、セミナー、研修会は、各地域で開催されていました。コロナ禍に入り、人との接触を避ける傾向から、こうした集まりは全て中止に。リアルで集まることができなくなって初めて私たちは、支援体制のデジタル化の遅れに気づいたというわけです。回復支援の場につながるチャンスを少しでも多く持ってもらうには、当事者からの各種相談を受けつけるデジタルプラットフォームと、デジタルプラットフォームにアクセスするためのパソコン知識が必須だと確信し、取り組みました。

2つめは、就労・自立へ向けた訓練を行う障害福祉サービス事業所「カルデモンメ」の設立です。私が運営するもう一つの団体・木津川ダルクで行ってきた生活支援に、農業体験を加えたプログラムを提供しています。

最後に、便利屋「楽々」事業。就労継続支援B型事業所※などでは、業務内容が限定的です。そのため、その業務に「やらされ感」を強く感じる当事者もいます。薬物やアルコールによるアディクション問題を抱える当事者は、断薬・断酒期間が長くなってくると、アディクション問題から解放されたような状態になります。しかしそれは完全な回復ではなく、その後も「できる日」と「できない日」がめぐってきます。そうした状態にある当事者たちが、自分の得意なこと・苦手なことを見つけながら、さまざまな仕事にふれられるように。何より、事業所の枠にはまることなく、自分たちの強みを仕事にしていってほしい。こうした思いで、「便利屋さん」としました。

※就労継続支援B型事業所
障害のある方が一般企業などでの就職、また雇用契約に基づく就労が困難である場合に、雇用契約を結ばずに働くことができる障害福祉サービスのこと。就労に必要なスキルなどを習得しながら障害や体調にあわせて自分のペースで働くことができ、賃金ではなく「工賃」として対価が支払われます。
生産活動の内容は事業所によって異なりますが、農作業や部品加工などの軽作業が多く、同じ就労継続支援でもA型と比べてより細分化された作業を行う場合が多いです。

障害福祉サービス事業所カルデモンメ

プロジェクト発案の背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

コロナをきっかけに、社会にリモートワークが普及しました。アルコール依存の傾向がある人のなかには時間を問わず、アルコールに手を伸ばしてしまう人も出てきたといいます。アルコールのほかにも、薬物やギャンブルに手をつけ、そのために特別給付金を使ってしまったというお話しも耳に届いています。

コロナがもたらした生活習慣の変化は、依存症リスクの高い人々を、アディクティブな行動に向かわせました。アディクション問題予備軍が増える一方で、当事者を対象とした回復支援のミーティングなどは中止され、減っていきます。こうして当事者と予備軍の方は、一時的に孤立。その分断された状態を改善したのが、インターネットを介したコミュニケーションだったのです。

このような経緯から、オンラインでつながるための知識と技術を当事者に伝える重要性を実感。アクセス先となるデジタルプラットフォームの構築も必須だとひらめきました。
オンラインによるコミュニケーションは便利ですが、リアルに比べて共感したり、一体感を覚えたりしづらいという意見もありました。そんな声から、リアルでもふれあえる場所として障害福祉サービス事業所「カルデモンメ」、回復した人たちの就労の場としての便利屋楽々へと、提供するサービスが広がっていったのです。

 

事業の成果はどうでしたか?

チャレンジした全ての事業において、数値目標を決めて取り組みました。

成果目標

・回復支援施設「カルデモンメ」の開所日数20日(週5日ペース)
・利用登録者数24名、相談件数月間30件、オンラインミーティング開催数月間20回
・農業で収穫した野菜を使った食事会を3回開催
・8名を月間500時間以上で雇用
・便利屋さん請負数月間20件


成果

・回復支援施設「カルデモンメ」の開所日数20日以上(週6日ペース)
・利用登録者数12名、相談件数月間15~20件(オンラインでの相談は20件以上)、オンラインミーティング開催数月間10回
・農業で収穫した野菜を使った食事会を3回開催
・便利屋さん業務請負総数1件(2023年2月時点) 


おおむね目標に近い数字を出せていますが、利用登録者については課題が残っています。現在登録してくれている12名は、もともと木津川ダルクの利用者ですので、新事業をもっと周知していく必要性を感じています。
各地のダルクや医療機関などと「カルデモンメ」とをつなぐオンラインミーティングの実施回数は、現在10回。オンラインにアクセスするためのパソコンルームは、利用者に活用してもらえているので、これから実施数を増やしていけるのではないかと思っています。
便利屋事業への受注数は、認知度がダイレクトに表れてしまいました。私や職員が、地域の知人にそれぞれ案内を送ったり、近隣の方に案内したりして、現在新事業を広めているところです。

目標をクリアできた項目、苦戦した項目はありますが、それぞれ数字を出すことができました。これも、私たちのプロジェクトに伴走してくれたプラスソーシャルインベストメントさんのおかげです。
プラスソーシャルインベストメントさんに大きな調整をお願いした出来事には、「カルデモンメ」のための物件取得がありました。
物件の目星もついて、2022年9月には「カルデモンメ」を稼働させるスケジュール感で動いていたのですが、不動産会社側の都合で物件を借りられなくなってしまったのです。賃貸は難しいけれど直接購入ならできるということで、直接購入に切り替えるか、ほかの物件を急いで探すかの判断を迫られ、プロジェクトは一時期ストップしました。
最終的には、物件を購入しようと決断。そうなると、提出している事業計画を変更しなければなりません。賃貸から購入への切り替え、それに伴う予算の変更など、プラスソーシャルインベストメントさんは柔軟に動いてくれました。「賃貸で決めたんだから、賃貸でやってください」などとは、ひと言も言わなかったですね。むしろ、可能な限り変更をして、私たちのプロジェクトがより理想の形で着地できるよう、力を尽くしてくれました。

一般社団法人回復支援の会

次のステージへ向かって

現在の活動状況はいかがでしょうか?新たに考えているチャレンジもありますか?

薬物やアルコールによるアディクション問題を抱える人が回復できるという事実は、まだあまり知られていません。一般就労には履歴書が必要です。そこにダルクの利用経験や、薬物依存症などと書くと、不採用になることは目に見えています。就労におけるデメリットを避けるため、回復者本人たちでさえ、ダルクとの関わりを記憶から排除しようとする傾向にあります。私もかつて当事者だったので、こうした気持ちは痛いほど理解できます。ただ、回復者たちが同じような行動を続けていては、今まさにアディクション問題に悩んでいる人に回復の場の存在を知らせるさえできません。回復者による回復支援も、遠い未来の話になってしまうでしょう。回復は、本人が強い意志で断薬・断酒に取り組んだ証。そうして得た回復という状態に、誇りと自信を持ってもらいたいと願っています。

回復者による回復支援が行われる未来に向けて、今後は「やりがい支援」にも取り組みます。仕事がある点はありがたいことですが、それが自分の能力に合った仕事なら、より大きなやりがいを感じるはずです。休眠預金活用事業は、当事者に提案できる仕事の選択肢を広げてくれました。本人の希望に沿って、便利屋事業、就労継続支援事業所への紹介などを行い、当事者にやりがいを提供していきたいと考えています。

 

回復支援の会農作業の様子

メッセージ

社会課題解決に向けて、事業を起こそうと考えている方はまだたくさんいると思われます。
「社会課題解決」に関心のある「未来の仲間」へ向けて、メッセージをお願いします。

「当事者は自律的に、自分たちの居場所を作っていってほしい」。当事者としての経験があるからこそこう考えて、今回のプロジェクトを企画・実行しました。
休眠預金活用事業にチャレンジしようかなと考えている方のなかには、「社会をこう変えていきたい」という夢や願いがあると思います。まずは、その思いを紙に書きだしてみてください。文字にできたら、その夢や願いを実現するにはどうしたらよいかを考える。できることを探すのではなく、やりたいことから逆算してプロジェクトを組み立てていくんです。

その際、単年度で全てを解決しようとは思わないこと。事業として見た時、初年度の成果はスタートラインに立ったかどうかというレベルにとどまっているかと思います。単年で終えず、チャレンジを継続するほど、よりたくさんの人に喜んでもらえるようになります。
あなたが支援したい人を思いうかべながら、ぜひペンを取ってみてください。それが夢の第一歩になるはずです。

回復支援の会農作業の様子

 

インタビューを終えて

今回の休眠預金等活用事業により、デジタルプラットフォームの構築、就労・自立へ向けた訓練を行う事業所の設立、便利屋事業が生まれました。
コロナ禍の環境下においても実践できるオンラインによるコミュニケーションの他、ふれあいや訓練、就労の場を構築され、回復支援、やりがい支援へ向け、歩み出されています。
アディクション問題を抱える方が回復し、自律的な生活を送るための新たなモデル事業の誕生に立ち会えたことを嬉しく思っています。

一般社団法人 回復支援の会の加藤武士さん、ありがとうございました!

現在の活動や思いについて、以下もご覧ください。


→一般社団法人 回復支援の会Webサイト

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